ひとえに「遺言」と言っても民法では様々な形式が用意されています。
民法で定められた遺言の方式
自筆証書遺言
公正証書遺言
秘密証書遺言
一般危急時遺言
難船危急時遺言
一般隔絶地遺言
船舶隔絶地遺言
しかし一般的に使用されている遺言の方式は2種類。「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは文字通り「自分で書くこと」。文書の全てを自筆で書くことを要し(財産目録はコピー等で可)、日付や押印も欠かしてはいけません。
公正証書遺言
公正証書遺言も文字通り「公正証書として作成すること」です。遺言者本人が内容案を作成し、それを公証人に公正証書遺言にしてもらいます。
今回は最も安全と言われている「公正証書遺言」について、作成の流れを説明していきます。
公正証書遺言とは?
公正証書遺言とは、公証役場で作成する遺言のことです。
公証役場とは、「公証人」がいる事務所のことで、全国に約300か所あります。
公証役場では公証人により、公正証書の作成や認証、確定日付の付与等が行われます。
公正証書遺言は「公正証書」となりますので、強力な証拠力のある文書です。裁判等でもまず覆ることのない強い文書となります。
その公正証書で遺言を作成するのですから、自筆証書遺言のように無効となる心配がなく、もっとも安全な遺言と言われています。
公正証書遺言のメリットとデメリット
メリット
原本が公証役場にあるので偽造・破棄・隠匿される可能性が無い
方式の不備で無効となる可能性が無い
検認手続きが不要
デメリット
すぐに作成できない
費用がかかる
証人が必要となる
内容を完全には秘密にできない
どうやって作るの?
厳密には公正証書遺言は遺言者ではなく、公証人が作成するものです。公証人が作成して初めて公正証書遺言となるのです。
とはいえ、内容については遺言者本人でなければわかりません。公証人が勝手に遺言の内容を決めるわけにはいきませんから。
ということで、公正証書遺言を作成したい方は、まず「案」を作ります。
「案」と言っても内容がしっかり固まっていればよく、必ずしもしっかりとした文書で作成する必要はありません。
とりあえず遺言内容の案ができていれば公正証書遺言作成に向けて進むことができます。
公正証書遺言の一般的な流れは、
①遺言の案を考える。
②必要書類を揃える。
③証人2人を用意する。
④公証役場に連絡して公正証書遺言を作成したい旨を伝え、訪問日を決める。
⑤公証役場に出向き、公正証書遺言作成案を伝える。
⑥公正証書遺言の作成日を決める。
⑦公正証書遺言の作成日に証人2人と公証役場へ出向く。
⑧公正証書遺言案の確認を行い、それぞれが署名、捺印を行う。
このようなものです。
しかし、思い立ったらすぐ行えるものではなく、しっかりとした準備が必要となります。
公正証書遺言作成のための準備
公正証書遺言の内容を考える
自分の財産から、誰に何をどれだけどのように配分するかを考えます。
自分の考え通り配分することができますが、その後のことも考えて、なるべくトラブルの起きないような内容を考えましょう。
その際、下記のようなことも記載することができます。
遺言執行者の指定
遺言執行者とは、遺言の内容を実現する権限を有します。
また、相続財産の目録を作成して相続人に交付したり、遺言内容の執行状況を報告する義務があります。
未成年者や破産者でなければ相続人でも受遺者でもなることができるのですが、遺言執行は大変な仕事なので、しっかりとした報酬額まで決めておかないと遺言執行者となることを拒まれることがあるので注意しましょう。
付言事項
付言事項とは、法定外の事項を記載することによって、残された者達にメッセージを送ることです。
付言事項がかかれていることによって、相続人の理解を得られ、トラブルを未然に防ぐことができます。
法律的効果はありませんが、家族の心に残る印象は強いものとなるので記載しておくと良いかもしれません。
予備的遺言
例えば遺言で長男に多くの財産を相続させると記載してあったとしても、遺言が効果を生じる(遺言者の死亡)前に長男がなんらかの理由で亡くなっていた場合は、その部分は無効となります。
遺言者の考えとして、長男が亡くなっていたらその息子(孫)にその財産を相続させようと考えていたとしたら、「予備的遺言」が必要となります。
「ただし、長男が死亡していた場合はその長男〇〇〇〇に当該財産を相続させる」旨の記載を残しましょう。
公正証書遺言作成に必要な書類
身分関係の書類
遺言者の印鑑証明書
相続人達の戸籍謄本
法定相続人以外で財産を受ける者がいる場合は住民票
財産を証する書類
不動産の登記事項証明書、固定資産評価証明
預金通帳
生命保険証書
有価証券の取引残高報告書
等
必要に応じて上記の書類などが必要となります。
公正証書遺言作成の費用
公正証書遺言作成には公証人に費用を支払って作成してもらいます。
その他相続財産の額や作成場所などの状況により追加費用がかかります。
さらに証人を公証役場に用意してもらうこともできますが、それについても費用がかかります。
証人については自分で用意することもできますが、未成年者や推定相続人などは証人になることができません。
お友達などに依頼することも可能なのですが、遺言の内容を知る事になるため、あまりお勧めはできません。
法律家に依頼するのが一般的ですが、その際には一人あたり1万円程度の費用を想定しておくと良いでしょう。
まずは「エンディングノート」から?
まだ実際に遺言を作成しようとは考えていない。ゆくゆくは遺言を作成したいけどまずは相続人や財産について整理したいとお考えの方は「エンディングノート」等を活用すると良いでしょう。
エンディングノートとは、自分の身の周りのことを確認するのに効果がある資料です。自分の好きなように作成することができます。
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以上が公正証書遺言作成についての概要になります。今後は民法改正により自筆証書遺言が作成しやすくなりますが、それまでは公正証書遺言が最も安全に作成できる遺言となりますので、一度ご検討してみてはいかがでしょうか。
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